「自分に合う仕事がわからない」
アステージで利用者さんと話していると、そんな相談を受けることがあります。
「人と関わらない仕事がいい」
「パソコンを使う仕事ならできそう」
「事務職がいい」
「軽作業がいい」
「在宅で働きたい」
「パン屋さんで働きたい」
「漫画やゲームが好きだから、それに関係する仕事がしたい」
もちろん、希望を持つことは大切です。
自分が何をしたいのか。
どんな仕事ならできそうなのか。
そこから考えることは、決して間違っていません。
でも私は、
「自分に合う仕事」を、頭の中だけで見つけようとしなくてもいい
と思っています。
なぜなら、仕事というのは、実際にやってみないと分からないことが本当に多いからです。
「事務職がいい」と言っていた人が、飲食店で活躍した
以前、こんな方がいました。
私が直接支援していた方ではありませんが、その方は最初、
「事務職がいい」
と希望していました。
ところが、その方を見ていた支援者は、
「飲食店の仕事が合うんじゃないかな」
とアドバイスしていました。
でも本人は、なかなかそれを受け入れられません。
自分は事務職がいい。
そう思って事務職で就職活動を進め、実際に採用にもなりました。
ところが、長くは続きませんでした。
その後もうまくいかない時期があり、改めて勧められていた飲食店の仕事に挑戦することになりました。
すると――
水を得た魚のように活躍し始めたのです。
いろいろな仕事を任されるようになり、今では職場になくてはならない存在になっています。
本人が最初に思っていた「自分に合う仕事」と、実際にその人が力を発揮できる仕事は違っていたのです。
こういうことは、決して珍しいことではありません。

自分のことなのに、自分だけでは分からない
「自分のことは、自分が一番よく分かっている」
そう思うかもしれません。
でも、本当にそうでしょうか。
私はむしろ、
自分のことだからこそ、自分だけでは分からないことがある
と思っています。
人は、人との交流の中で生かされ、そして活かされます。
接する相手が変われば、自分も変わります。
一人でいるときには気づかなかった一面が、人と関わることで出てくることもあります。
自分では、
「人と話すのは苦手」
と思っていた人が、ある職場では自然に人と話せるかもしれない。
「単純作業は向いていない」
と思っていた人が、実際にやってみると集中して取り組めるかもしれない。
反対に、
「パソコンが好きだから事務職が向いている」
と思っていても、趣味でパソコンを使うことと、仕事として毎日パソコンを使うことは違います。
だから、経験してみることが大切なのです。

適職診断をすれば「向いている仕事」は分かるのか
適性検査や適職診断も、一つの参考になると思います。
好きなこと。
嫌いなこと。
得意なこと。
苦手なこと。
自分の特徴を知るための材料にはなります。
でも、それだけで仕事を決められるほど単純ではありません。
同じ業種、同じ職種であっても、会社が変われば環境が変わります。
一緒に働く人も違います。
会社の規模も違う。
仕事の進め方も違う。
求められるスピードも違う。
上司の指示の出し方も違う。
だから、
「この職種が向いているから、この会社でも大丈夫」
とは一概には言えません。
やっぱり、やってみないと分からない。
私はそう思っています。

「好きなことを仕事にする」だけが仕事選びではない
よく、
「好きだから上達する」
「楽しいから続けられる」
と言われます。
もちろん、それもあると思います。
でも、最初から仕事が好きだったり、楽しかったりする人ばかりではありません。
むしろ最初は、
「自分に何ができるだろう」
「自分は何をすることで役に立てるだろう」
そこから始めてもいいのではないでしょうか。
やっているうちに、
「ありがとう」
と言ってもらえる。
誰かが喜んでくれる。
自分がやったことで、誰かが助かる。
そんな経験を積み重ねていくと、
「自分は、人に喜んでもらえることが嬉しいんだ」
と気づくことがあります。
あるいは、
チームの一員として仕事をすることにやりがいを感じる人もいる。
人間関係が心地よいから仕事が楽しくなる人もいる。
逆に、一人で黙々と仕事に打ち込める環境が心地いい人もいる。
それは、頭の中で考えているだけではなかなか分かりません。

人からもらったネクタイが、意外と似合うことがある
仕事選びについて考えるとき、私はよくネクタイの話をします。
自分でネクタイを買いに行くと、どうしても自分の好きな色や、いつも選んでいるような柄を手に取ります。
でも、人からネクタイをプレゼントしてもらうと、
「えっ、自分では絶対に選ばないな」
というものをもらうことがあります。
ところが、実際につけてみると、
意外と似合う。
周りからも、
「それ、似合っていますね」
と言われたりする。
自分には見えていなかった自分を、相手が見つけてくれたのかもしれません。
仕事も、少し似ていると思います。
自分では、
「これは向いていない」
「これは自分の仕事じゃない」
と思っている。
でも、身近で自分を見てくれている人から、
「あなたは、こういう仕事が合うと思うよ」
と言われることがあります。
そんなとき、最初から否定するのではなく、
「そういう見方もあるのか」
と一度受け取ってみてほしい。
支援者や家族、職場の人など、自分を見てくれている人の客観的な視点には、自分では気づいていない強みが隠れていることがあります。

仕事選びにも、そんな「人から見える自分」がある
のかもしれません。
アステージが、社会の中に出ていく理由
アステージでは、施設の中だけで学ぶのではなく、できるだけ社会に出ていく機会をつくっています。
企業見学。
LIVE学習。
社長のかばん持ち体験。
職場体験。
実習。
さまざまな人、仕事、会社、場所に触れてもらいます。
なぜ、そこまでするのか。
それは、
自分を知るためには、社会に出てみることが必要だからです。
実際に行ってみる。
人に会ってみる。
仕事を見てみる。
やってみる。
そうすると、
「これは好きかもしれない」
「思っていた仕事と違った」
「意外とできた」
「これは思った以上に疲れるな」
「この雰囲気は好きだな」
「こういう人たちとなら働けそう」
いろいろなことが分かってきます。
その一つひとつが、仕事選びです。

仕事内容だけでなく「働き続けられる条件」を知る
仕事を探すとき、多くの人は最初に仕事内容を見ます。
もちろん、それは大事です。
でも、働き続けるためには、仕事内容以外にも考えてほしいことがあります。
通勤時間はどのくらいなら無理なく通えるのか。
何時から何時までなら働けるのか。
週何日なら続けられるのか。
大人数の職場がいいのか、少人数がいいのか。
静かな環境がいいのか、多少にぎやかな方がいいのか。
人との距離感はどうか。
仕事をしたあと、どのくらい疲れるのか。
指示はどんな伝え方なら理解しやすいのか。
分からないときに質問できる環境なのか。
こういうことは、求人票だけではなかなか分かりません。
面接を受けても、まだ分からないことがあります。
実際に働き始めてから分かることだってあります。
だからこそ、できれば一段一段、階段を上がるように確かめていってほしい。
見学する。
体験する。
実習する。
場合によってはトライアル雇用などを活用する。
本人も会社も、お互いを知っていく。
私は、そのプロセスがとても大切だと思っています。
もしかすると、
「自分に合う仕事を見つける」
というより、
「自分が働き続けられる条件を知っていく」
と言った方が近いのかもしれません。
「自分に向いている仕事を教えてください」
もし利用者さんから、
「自分に向いている仕事を教えてください」
「失敗したくないので、自分に一番合っている仕事を見つけてから就職したいです」
と言われたら、私はたぶんこう答えます。
自分に向いている仕事がわかるなら、だれも苦労しないよ(笑)
私自身、いまだにわからないよ。
私もアルバイトを含めると、本当にいろいろな業種、職種を経験してきました。
そのとき置かれている立場。
家族のこと。
給与。
人間関係。
通勤時間。
距離。
いろんな条件があります。
だから、
やってみないと分からない。
そして、
続けてみないと分からない。
もちろん私自身、続けてみないと分からないと言いながら、その前に腹が立って辞めた仕事もたくさんありましたけどね(笑)。
そんな経験を繰り返してきて、今思うことがあります。
私はやっぱり、
人に喜んでほしい。
誰かの役に立てているという感覚が嬉しい。
そこは、いろいろな仕事をしてきたからこそ分かってきたことなのかもしれません。
だから利用者さんにも、何度でもトライしてほしいと思っています。
チャレンジしてほしい。
合わなかったら、そこからまた考えればいい。

仕事を探す前に、自分を知る。でも――
「自分に合う仕事を見つけてから、社会に出る」
そう考える人もいると思います。
でも私は、順番が少し違うのではないかと思っています。
仕事を探す前に、自分を知る。
これは、とても大切です。
でも、
自分を知るためには、社会に出て、やってみる必要がある。
人に会う。
仕事を見る。
やってみる。
うまくいく。
うまくいかない。
褒められる。
注意される。
疲れる。
楽しい。
悔しい。
もう一度やってみる。
そんな経験を繰り返しながら、
「自分はこういうことが得意なんだ」
「こういう環境だと力を出せるんだ」
「これは苦手だと思っていたけれど、意外とできるんだ」
「こういうとき、自分はしんどくなるんだ」
「自分は、こんなことで人に喜んでもらえるんだ」
少しずつ、自分が見えてきます。
最初から正解の仕事を探さなくてもいい。
一度で見つからなくてもいい。
遠回りしてもいい。
何度もトライして、チャレンジしてほしい。
そこから見えてくるものが、必ずあるから。
アステージは、そのために社会とつながりながら、自分を知っていく場所でありたいと思っています。
社会に学ぶ。
社会の中で学ぶ。
社会の一員として学ぶ。
それが、私たちが大切にしていることです。


