「今日、スタッフに怒られました」
利用者さんから、そんな話を聞くことがあります。
ところがスタッフに確認すると、
「怒ったつもりはないんです」
「こうしたほうがいいよ、と伝えただけです」
ということがあります。
どちらかが嘘をついているわけではありません。
本人にとっては、本当に、
「怒られた」
と感じているのです。
同じ言葉でも、受け取り方によって意味が変わってしまう。
ASTAGEでも、ときどき起こることです。
そして私は、この「受け取り方」は、社会で生きていくうえでも、働き続けていくうえでも、とても大切なことだと思っています。

「僕が悪いんですか?」
例えば、
「こうしたほうがいいと思うよ」
「こういうふうにすると、相手はこんなふうに感じるかもしれないよ」
と伝えたとします。
すると、
「僕が悪いんですか?」
「なんで僕ばっかり言われるんですか?」
「ほかの人だってやっているじゃないですか」
という反応になることがあります。
場合によっては、
「じゃあ謝ればいいんですか!」
となってしまうこともあります。
こちらが伝えたかったのは、
「あなたが悪い」
ということではありません。
そのときの行動や言葉について、
「ここは少し変えたほうがいいんじゃないかな」
と伝えただけです。
ところが本人の中では、
行動について指摘されたことが、自分自身を否定されたことに変わってしまう。
だから、苦しくなる。
腹が立つ。
自分を守りたくなる。
そして、
「自分は悪くない」
「相手がおかしい」
という方向へ気持ちが向いてしまうことがあります。
なぜ「注意された」が「怒られた」になるのか
これは簡単な話ではありません。
その人がこれまでどんな経験をしてきたのか。
どんな人間関係の中で育ってきたのか。
失敗したとき、周囲からどんな言葉をかけられてきたのか。
障がいの特性が影響していることもあるでしょう。
自信のなさが関係している場合もあると思います。
あるいは、
「正解でなければいけない」
という考えが強い人もいます。
正解なら○。
間違いなら×。
だから、間違いを指摘されると、
「自分は×なんだ」
と感じてしまう。
でも、本当は、
「あなたがダメ」と「そのやり方は変えたほうがいい」は、まったく違う話です。
ただ、それを頭で説明したからといって、すぐに受け止め方が変わるわけではありません。
だからASTAGEでは、日々のいろいろな出来事を通して、少しずつ練習していきます。

まずは「怒られてないよ」と否定しない
本人が、
「怒られた」
と言っている。
しかも、かなり感情が高ぶっている。
そんなときに、
「いや、怒られてないよ」
「そんな受け取り方をしたらダメだよ」
と言っても、なかなか話は入っていきません。
だから、まずは話を聴きます。
「何があったの?」
「何て言われたの?」
「そのとき、どう思った?」
一つずつ整理していきます。
本人にとって「怒られた」と感じたことまで否定する必要はありません。
ただ、少し落ち着いてきたら、次を一緒に考えます。
「相手は、何を伝えたかったんだろう?」
ここが大切です。
立場を反対にしてみる
ASTAGEの現場では、実際のやり取りを振り返ることがあります。
「あなたがこう言ったとき、聞いている人はどう感じると思う?」
分からなければ、立場を反対にしてみる。
スタッフが本人役をする。
本人には相手役になってもらう。
そして同じやり取りを再現してみる。
すると、
「あ……」
と気づくことがあります。
自分が言っているときには分からなかったことが、相手の立場に立つと分かる。
もちろん、一度で分かる人ばかりではありません。
何度やっても、なかなか受け入れられないこともあります。
それでも、繰り返します。
なぜなら、社会に出れば、自分とは違う考え方をする人とたくさん出会うからです。
自分には自分の気持ちがある。
同じように、
相手にも相手の気持ちがある。
その両方を考えられるようになることも、社会で生きていくための大切な練習だと思っています。

「なぜ自分は、いつも同じことになるんだろう」
私は、ここがとても大事だと思っています。
職場で上司とうまくいかなかった。
注意されて腹が立った。
「自分ばかり責められている」と思った。
仕事を辞めた。
環境を変えた。
ところが、新しい場所でも同じようなことが起きた。
もちろん、すべて本人に原因があるという話ではありません。
相性の悪い人もいる。
理不尽なことを言う人もいる。
本当に環境を変えたほうがいい職場だってあります。
でも、場所や相手が変わっても、何度も同じようなところで苦しくなっているとしたら。
一度だけ、
自分にも矢印を向けてみてほしい。
「なんで、いつも自分はここで苦しくなるんだろう?」
「なぜ、注意されるとこんなに腹が立つんだろう?」
「なぜ、アドバイスを『怒られた』と受け取ってしまうんだろう?」
自分を責めるためではありません。
自分の考え方の癖を知るためです。
注意されない人になる必要はない
就職したら、注意されることがなくなるでしょうか。
そんなことはありません。
私だってあります。
仕事を間違えれば、
「ここ違いますよ」
と言われる。
やり方が違えば、
「次からこうしてください」
と言われる。
時間を守らなければ注意される。
相手に失礼なことをすれば、それを指摘される。
場合によっては、本当に厳しく言われることだってあります。
だから目指してほしいのは、
「注意されない人」になることではありません。
大切なのは、
注意されたあと、どうするか。
だと思っています。

「すみません」「ありがとうございます」「もう一度やってみます」
間違えたのなら、まず認める。
相手に迷惑をかけたのなら、
「すみませんでした」
と言う。
分からなければ、
「もう一度教えてください」
と聞く。
教えてもらったら、
「ありがとうございます」
と伝える。
そして、
「もう一度やってみます」
と動く。
私は、こういう素直さは、働き続けるうえでとても大きな力になると思っています。
完璧でなくてもいいんです。
仕事が少し遅いこともある。
覚えるのに時間がかかることもある。
失敗することもある。
でも、
「間違えました。すみません」
「教えてくれてありがとうございます」
「次はやってみます」
と言える人を見ると、
周りは、
「この人、頑張っているな」
「もう一回教えてあげよう」
「応援したいな」
と思うのではないでしょうか。
言葉で「感謝しています」と言うことだけではありません。
その後、どう行動するか。
そこまで含めて、素直さなのだと思います。

素直になることは、何でも言うことを聞くことではない
ここは誤解してほしくありません。
私は、
「人から言われたことは、何でも黙って受け入れなさい」
と言っているわけではありません。
相手が間違っていることもあります。
納得できないこともあるでしょう。
理不尽に怒られることだってあります。
そんなときは、
「私はこう思います」
と伝えればいい。
困ったら、誰かに相談してもいい。
以前このブログでも書いたように、自分の意見を持つことも、自分で選ぶことも、とても大切です。
でも、
「自分の意見を持つこと」と「人の意見を聞かないこと」は違います。
一度、相手の言葉を受け取ってみる。
「この人は何を伝えようとしているんだろう?」
と考えてみる。
そのうえで、自分はどう思うのかを考える。
それができるようになると、人との関わり方は少しずつ変わっていくと思います。
「今日、スタッフに怒られました」
もし利用者さんから、
「今日、スタッフに怒られました」
「自分なりに頑張ったのに注意されました」
「やっぱり自分はダメなんだと思います」
「明日、行きたくないです」
と言われたら。
まず私は、ゆっくり話を聴くと思います。
感情が高ぶっているときに、
「あなたが悪い」
「スタッフは間違っていない」
なんて言っても、何も入ってこないでしょう。
だから、まず聴く。
そのうえで、少し落ち着いたら、一緒に考えたい。

今までと同じ自分に、また巡り合うのか
腹が立つかもしれません。
「なんで自分ばっかり」
と思うかもしれません。
でも、そこで少しだけ立ち止まってほしい。
なぜ自分は、いつも同じことになってしまうんだろう。
なぜ、素直に聞けないんだろう。
なぜ、アドバイスや指摘を、
「怒られている」
と受け取ってしまうんだろう。
今までと同じ受け取り方をして、
「自分は悪くない」
「相手がおかしい」
だけで終われば、また同じところで苦しくなるかもしれません。
私はそれを、
「同じ自分に、また巡り合う」
ということだと思っています。
でも、自分の人生を少しでも好転させたいと思うなら。
一度だけ、自分の受け取り方を見てみてほしい。

注意された先にいる「自分」を想像してほしい
注意されるのは嫌です。
できれば誰だって、褒められたい。
自分を認めてもらいたい。
でも、もし、
誰かからのアドバイスを一度受け取れるようになったら。
間違いを認められるようになったら。
「すみません」
「ありがとうございます」
が自然に言えるようになったら。
周りとのトラブルが少し減るかもしれない。
人との関係が少し楽になるかもしれない。
そして、
もう一度、働けるようになるかもしれない。
その自分は、うれしくないでしょうか。
私は、そこをイメージしてほしいと思っています。
注意されたことは、
「あなたはダメです」
という意味ではありません。
もしかすると、
「ここを変えたら、もっとよくなるよ」
と教えてもらったのかもしれません。
注意やアドバイスを、自分を否定する言葉として受け取るのか。
それとも、自分が少し生きやすくなるためのヒントとして受け取るのか。
その違いは、とても大きいと思います。

注意されないことが、成長ではない
間違えない人になる必要はありません。
注意されない人になる必要もありません。
大人になっても、誰だって間違えます。
私だって間違えます。
大切なのは、
注意されたときに、どう受け止めるか。
そして、
そのあと、自分はどうするのか。
一度立ち止まる。
相手の話を聞いてみる。
自分にも変えられるところがないか考えてみる。
間違っていたら認める。
必要なら謝る。
教えてもらったら感謝する。
そして、もう一度やってみる。
それを繰り返しているうちに、
以前なら「怒られた」としか思えなかった言葉が、
いつか、
「自分を成長させてくれた言葉だった」
と思える日が来るかもしれません。
時間がかかってもいい。
ASTAGEにいる間に、いろいろな人と関わりながら、そんな経験も積み重ねてほしいと思っています。
明日をちょっとごきげんに。


