「自立訓練から、就職できるんですか?」

支援機関の方や、ご家族から、よく聞かれる質問があります。


「自立訓練から、就職できるんですか?」

おそらく、

「就職を目指すなら、就労移行支援では?」

「自立訓練は、まず生活を整えるところでは?」

そんなイメージがあるのだと思います。

その質問をいただいたとき、私はまず、こう答えています。

「はい、就職できます。」

アステージの創業メンバーは、もともと就労支援に長く携わってきました。

就労継続支援B型、就労移行支援、障害者雇用支援など、さまざまな現場で経験を積んできました。

そしてアステージからも、この4年間で5名が就職しています。

でも、私たちが一番大切にしているのは、

「就職させること」だけではありません。

その人が、就職したその先も、いろいろなことに向き合いながら、社会の中で生きていけること。

そこまでを考えています。


社会に出て、実際の仕事や働く人に触れる。アステージでは、教室の外にもたくさんの学びの場があります。


「生活する力」と「働く力」は、分けられるのでしょうか

生活が整ってから、次に就職する。

一見すると、それが理想的な順番に思えます。

もちろん、生活リズムは大切です。

朝起きる。
決められた日に通う。
時間を守る。

でも私は、生活と就労は、そんなにきれいに分けられるものではないと思っています。

働くことを意識することで、生活に張りが出る人もいます。

役割を持つことで、朝起きられるようになる人もいます。

人から必要とされることで、責任感が芽生えることもあります。

そして、

人と関わる。
自分の状態を伝える。
困ったときに助けを求める。
失敗したら認める。
「ありがとう」と感謝する。

これらは「生活する力」でしょうか。

それとも「働く力」でしょうか。

私は、どちらでもあると思っています。


地域の清掃活動も、社会の一員として誰かのために動く経験のひとつです。日常の中に「働く力」につながる学びがあります。

考える、相談する、役割を持つ、協力する。料理のような日常の活動の中にも、社会で生きていくための力が詰まっています。


「もっと真剣にやっておけばよかった」

アステージの利用期間が残り2〜3か月になった頃、こんなことを言う人がいます。

「もっと真剣にプログラムに向き合っておけばよかった。」

職場体験や実習が始まり、少しずつ「働く」ということが現実になってくる。

すると、それまで何気なく参加していたプログラムや、人との関わりの意味が見えてくるのです。

「あのとき言われていたのは、こういうことだったのか」

「あの経験が、ここにつながっていたんだ」

後になって気づくことがあります。

だからアステージでは、就職が決まってから働く準備をするのではなく、

働くことを想定しながら、日々を過ごす。

それを大切にしています。


「働けるなんて、思っていなかった」

実は、アステージから就職した人の多くが、最初から、

「2年後には就職します!」

と決めていたわけではありません。

むしろ、

「自分が働けるとは思っていなかった」

という人のほうが多いのです。

ある利用者さんは、支援学校を卒業してアステージへ来ました。

高校を卒業したばかり。

「いつか働けるようになれたらいいな」

そのくらいの気持ちでした。

遊びにも行きたい。

朝はゆっくり寝たい。

面倒くさいことは、できればしたくない。

人前で自分の意見を言うことも苦手でした。

自分の感想を求められると、涙が出てしまい、「パスします」と言うこともしばしばありました。

初めて企業見学会へ行った日。

革靴を履き、企業へ向かいました。

ところが、企業に着く前に緊張で涙が出てきました。


最初から自信があったわけではありません。社会に出て、見て、聞いて、経験することを、一つずつ重ねていきます。


それでも、毎日アステージへ来ました。

つらいことがあっても。

嫌なことがあっても。

休まず通い続けました。

そして少しずつ変わっていきました。

「自分の意見を言ってもいいんだ。」

そう思えるようになったのです。

自分の感想を話す。

仲間が聞いてくれる。

「それ、いいやん」と肯定してくれる。

時には自分の話でみんなが笑ってくれる。

そうした経験を積み重ねるうちに、知らない人の前でも、自分の考えを話せるようになりました。

やがて、初めて会った社長にも、自分の意見や感想を伝えられるようになりました。

そして、話し終わったあとに拍手をもらう。

そんな経験も増えていきました。


人との出会いが、自分の世界を少しずつ広げていきます。


企業見学への緊張も、少しずつ和らいでいきました。

職場体験ができるようになりました。

実習にも行けるようになりました。

そして、そんな姿を見て、

「この人を応援したい」

と思ってくれる企業が現れ

就職に至りました。

延長期間を含めて、アステージで過ごした3年間。

私たちが「就職するための技術」だけを教えたから、就職できたのではありません。

人と関わり、

失敗したり、

励ましてもらったり、

自分の気持ちを伝えたり、

誰かを応援したり、

自分も応援されたり。

その積み重ねの先に、就職があったのだと思っています。


アステージは、就職のための学校ではありません

では、就労移行支援とアステージの自立訓練は、何が違うのでしょうか。

私は、どちらが上で、どちらが下という話ではないと思っています。

大切なのは、

「今、その人に何が必要なのか」

です。

アステージは、最初から就職ありきの場所ではありません。

資格やスキル、ビジネスマナーだけを身につける場所でもありません。

その前に、もっと大切にしていることがあります。

自分を知る。

自分の得意なことを知る。

自分の苦手なことを知る。

障がいがあるがゆえに、どんな場面で困りやすいのかを知る。

そして、

「私はこう思います」

「私はこう感じました」

「ちょっと困っています」

「助けてください」

と言えるようになる。

そして最後は、

自分で考え、自分で選ぶ。

社会の中で生きていくためには、こうした力がとても大切だと思っています。


2年間で、100人の人生に出会う

アステージでは、教室の中だけで学ぶことを良しとしていません。

企業へ行く。

お店へ行く。

経営者に会う。

働いている人に話を聞く。

地域に出る。

さまざまな人生を歩んできた人たちと交流する。

2年間で、社会の100人の人生や仕事から学ぶ。

それを一つの目標にしています。

「こんな仕事があるんだ」

「こんな生き方をしている人がいるんだ」

「失敗しても、やり直している人がいるんだ」

「自分とはまったく違う考え方もあるんだ」

教科書を読んでいるだけでは、なかなか得られないものがあります。


教室を飛び出し、社会の中で学ぶ。さまざまな人や仕事との出会いが、自分の未来の選択肢を広げていきます。


そして、もう一つ。

アステージには仲間がいます。

一緒に笑った仲間。

一緒に悩んだ仲間。

時には腹が立った仲間。

自分がしんどいときに、声をかけてくれた仲間。

そして、自分が誰かを応援した経験。

卒業してからも顔を出してくれるOB・OGたち。

こうした人とのつながりもまた、社会に出ていくときの大きな財産になると考えています。


一人で頑張るのではなく、仲間と学び、笑い、時には悩む。誰かを応援し、誰かに応援される経験も、大切な2年間の一部です。


「だったら、最初から就職の訓練をしたほうが早いのでは?」

ご家族から、こんなふうに言われることもあります。

「うちの子には就職してほしいんです。だったら自立訓練ではなく、最初から就職の訓練をしたほうが早いんじゃないですか?」

その気持ちは、よく分かります。

親御さんとしては、やはり将来が心配です。

「この子は一人で生きていけるのだろうか」

「ちゃんと働けるのだろうか」

そう考えるのは当然だと思います。

でも、そんなご家族にこそ、私は想像してみてほしいのです。

お子さんが仲間の中にいる姿を。

みんなで笑っている姿。

時にはぶつかっている姿。

うまくいかなくて悔しがっている姿。

自分で頑張っている姿。

仲間を応援している姿。

そして、自分も仲間から応援されている姿。

誰かの困難を知り、

「大変なのは自分だけじゃないんだ」

と知っていく姿。

そこには、資格の勉強や就職活動だけでは得られない時間があります。

少しずつ親離れをする。

そして、ご家族も少しずつ子離れをしていく。

自分の人生を、自分で歩き始める。

私は、アステージで過ごす2年間を、

「生きていくための2年間」

だと思っています。


就職することと、働き続けることは違う


就職する。

それは、とても大きな一歩です。

でも、人生はそこで終わりではありません。

職場では、思い通りにならないことがあります。

苦手な人とも出会います。

注意されることもあります。

失敗することもあります。

仕事を辞めたくなる日だってあるでしょう。

だからこそ、

働き続けるために。

そして、

困難なことがあっても、たくましく生きていくために。

まず、自分を知ってほしい。

自分の弱さも知ってほしい。

そして、自分にはできることがあることも知ってほしい。

困ったときには、

「困っています」

と言える人になってほしい。

一人で抱え込まず、

「助けてください」

と言える人になってほしい。

そして誰かに助けてもらったら、

「ありがとう」

と言える人になってほしい。

それは、就職のためだけに必要な力ではありません。

これからの人生を生きていくための力です。


どんな未来になるかは、最初から誰にもわかりません。だからこそ、私たちは一人ひとりの可能性に、ふたをしない。

親でさえ、我が子について分からないことは、たくさんあります。

ましてや、その子の未来なんて、誰にも分かりません。

今は「働けない」と思っている人が、数年後、社会の中で誰かに必要とされて働いているかもしれない。

人前で話せなかった人が、堂々と自分の意見を話しているかもしれない。

誰かに助けてもらうばかりだった人が、今度は誰かを応援しているかもしれない。

だから私たちは、

その人の可能性に、先回りしてふたをしたくありません。

自立訓練から、就職できるんですか?

はい、就職できます。

でもアステージが目指しているのは、そのもう少し先です。

就職することだけではなく、

自分を知り、人を知り、社会を知り、
自分の人生を、自分で選びながら生きていくこと。

その力を身につけた先に、就職という一つの選択肢がある。

私たちは、そう考えています。

そんな彼らの成長を、ぜひ一緒に見届けてください。


明日をちょっとごきげんに。

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